都市部での新築アパート投資は、安定した家賃収入や資産形成を目指す投資家にとって魅力的な選択肢とされています。人口が集中し、交通や生活インフラが整備されている都市部では、一定の需要が見込めるためです。しかし、その一方で、都市型新築アパート投資には見過ごせないリスクや問題点も存在します。本記事では、特に注意すべきポイントを中心に、投資家が知っておくべきリスクとその背景について、具体的な数値データを交えて解説します。
1. 供給過多による空室リスク
都市部では毎年多くの新築アパートが建設されています。例えば、東京都心部では2024年時点での住宅地の地価公示平均値が1平方メートルあたり約26.7万円と全国平均の約2倍となっており、高い地価が続いています。
このような状況下で、類似した仕様のアパートが多数建設されると、物件数が需要を上回り、空室リスクが高まります。入居者の選択肢が増えるため、立地や設備、家賃設定において競争力がない物件は敬遠されがちです。特に新築時は満室でも、数年後には競合が増え、家賃を下げざるを得なくなるケースもあります。
2. 表面利回りと実質利回りの乖離
都市型新築アパートの販売資料では、高い「表面利回り」が示されることがあります。しかし、実際の投資で得られる「実質利回り」は、これより大きく下がることが一般的です。
例えば、年間家賃収入が600万円、物件価格が1億円の場合、表面利回りは6%となります。しかし、以下のような経費を考慮すると、実質利回りは大幅に低下します:
-
管理費・修繕費:年間約60万円(家賃収入の10%)
-
固定資産税・都市計画税:年間約30万円
-
空室損:年間約60万円(空室率10%と仮定)
-
広告費・仲介手数料:年間約30万円
これらを差し引くと、実質的な手取り収益は420万円となり、実質利回りは4.2%に低下します。購入前に収支シミュレーションを鵜呑みにせず、実際に発生する可能性のある経費をしっかりと精査することが重要です。
3. 建築コストの高騰と利回りの低下
近年、建築資材や人件費の高騰により、新築アパートの建築コストは上昇傾向にあります。例えば、木造アパートの建築費用は、2018年には坪単価約70万円だったものが、2023年には約90万円に上昇しています。
一方で、家賃相場が同じ割合で上昇しているわけではないため、利回りは相対的に低下しています。建築コストを抑えようとすると、建物の質が下がり、長期的なメンテナンス費用がかさむリスクもあります。
4. 土地価格の高止まりと収益性の悪化
都市部の土地価格は高止まりしており、収益物件としての採算ラインを確保しづらくなっています。東京都心部の地価公示平均値は、2024年時点で1平方メートルあたり約26.7万円と高水準を維持しています。
利回りを出すために、狭小地や変形地にアパートを建てる例も増えていますが、こうした土地では入居者のニーズが限られており、将来的な売却にも不安が残ります。また、「建てれば貸せる」という発想で開発された物件は、立地や建物の設計が入居者目線ではないことも多く、結果的に空室や短期退去が増える要因となります。
5. 金融機関の融資審査の厳格化
2018年以降、アパートローンに対する金融機関の姿勢は徐々に厳格化しています。物件評価や自己資金比率に対するチェックが強化され、特に新築アパートの場合、「建築費+土地代」が高額になるため、自己資金の比率が低いと融資が通りづらくなっています。
また、金利が上昇傾向にある現在では、融資条件そのものが利回りに与える影響も大きくなっています。例えば、金利が1%上昇すると、年間の利息支払いが数十万円増加し、収益性を圧迫します。
6. 売却時の価格下落リスク
新築時は魅力的に見える物件も、5年後、10年後には「築古アパート」として扱われることになります。特に都市部では「築浅中古アパート」の競合も多く、市場価値が思ったよりも下がっているケースも少なくありません。
また、建物の価値は年々下がるのに対し、土地の価格が必ずしも維持されるとは限らないため、売却時に簿価割れする可能性もあります。出口戦略を考えずに購入すると、資産を大きく毀損するリスクを抱えることになります。
まとめ:魅力の裏にあるリスクを見極める目を
都市型新築アパート投資は、安定的な収益を見込める反面、供給過多・利回りの低下・融資制限・売却リスクといった多くの課題を内包しています。実際に国土交通省のデータによると、東京都23区内における賃貸住宅の空室率は2023年時点で約12.4%とされており、競争の激しさが数字にも表れています。
また、民間調査によると、利回りの全国平均(木造アパート)は2023年時点で約7.5%ですが、東京都心の新築アパートでは5.0〜6.0%程度にとどまる傾向があります。これらの表面利回りは、先に述べたように諸経費を差し引くとさらに下がることが多く、思ったような収益が得られないケースも少なくありません。
投資として成功させるためには、目先の数字だけで判断するのではなく、「本質的な収益性」と「将来的な出口戦略」を見据える必要があります。たとえば、以下のような点を重視すると良いでしょう:
-
駅徒歩5分以内など、希少性のある立地
-
ターゲット層に合った間取り・設備(1K/1LDKなど)
-
人口増加・再開発予定のあるエリア
-
10年後の売却価格を予測に入れたキャッシュフロー計算
また、賃貸管理会社や施工業者の質も運用成績に大きな影響を与えるため、信頼できるパートナーの選定も欠かせません。
結びに
都市型新築アパート投資は、知識と戦略を持って臨めば資産形成に寄与する可能性のある手法です。しかし、物件選定や資金計画を誤れば、「負動産」化してしまうリスクも存在します。
重要なのは、「投資は常にリスクと隣り合わせである」という前提を忘れず、数字や事実に基づいた判断を行うこと。情報が氾濫する今だからこそ、自らデータを読み解き、冷静に選択を行うことが求められます。
これから都市型新築アパート投資に挑戦しようと考えている方は、短期的な利回りに一喜一憂するのではなく、10年後、20年後を見据えた堅実な投資計画を立てていきましょう。